日中のEV充電器規格を統一することによるアドバンテージと世界への影響

電気自動車向けの充電器(EV充電器)の規格を日本と中国(日中)で統一し、2020年をめどに実用化を目指すこととなりました。

この規格統一により世界のEV充電器市場の9割を超えるシェアを持つこととなり、この規格が国際標準となる可能性が高まりました。

EV充電器器の規格について

写真:中国のEV充電規格「GB/T」

2018年現在、世界には大きく分けて3つのEV充電器規格が存在しています。

1つ目は中国の業界団体「中国電力企業連合会」の規格「GB/T」で、世界シェア87%(約22万基)。
2つ目は日本の業界団体「チャデモ協議会」の規格「CHAdeMO(チャデモ)」で、世界シェア7%(約1.8万基)。
3つ目は欧州の規格「コンボ」で、世界シェア3%(約7千基)。

 

シェアから考えて中国を無視して日本、欧州が手を組んでも焼け石に水な状況です。国際標準を目指すのであれば、中国から考えて、中国単独、中国と日本、もしくは中国と欧州、のどれかが考えられました。最終的には中国は、日本と手を組むことを選びましたが、欧州もまた中国と手を組むことを目指していたようです。

三大規格以外に実はもう一つ充電規格がある?!

ちなみに、アメリカのテスラもEV充電器を開発しているが、テスラ独自規格であるため、シェアは圧倒的に低いです。ただ、最新のModel S、Model Xは中国市場向けに「GB/T」にも対応(充電する差込口が2つある)しています。さすがに独自規格だけでは勝負は無理と考え、市場の大きな中国向けの対応は欠かせなかったようです。欧米メーカーが採用している「コンボ」ではなく「GB/T」というところが既存メーカーではない、新興メーカーならではの、しがらみを無視できる柔軟さなのでしょうか。テスラがこのような対応をしているということは、日中で規格統一したら、テスラの新しいEV車でも新規格に対応してくる可能性が高いです。

 

なぜ日中による規格統一となったのか

中国の「GB/T」という規格は、実は日本の「CHAdeMO」の技術を基にして作られているため、規格統一のハードルは低いようです。充電器内部の通信方式が同じ「Controller Area Network(CAN)」なので、充電の為の差込口を変えるだけで「CHAdeMO」に対応できるとのことです。もし欧州の「コンボ」と規格統一ということになると、「GB/T」とは全く異なる規格となるので単純な改造では済まず、コストが高くなってしまいます。

 

シェアだけ見ると中国の「GB/T」が強いので中国単独で国際標準を目指す可能性はなかったのでしょうか?

 

数字だけ見ると、強いシェアを携えて自国の規格をゴリ押し出来そうに思えますが、中国の規格の開発経緯や出来上がりに懸念点があり、中国単独規格という線はなかったようです。「GB/T」は数は多いですが、品質面に難があり、故障が多いことが知られています。その点、日本の「CHAdeMO」は品質に自信があり、故障が少ないので中国としてはその高い品質を手に入れたいところです。また、EV充電器の規格統一は次世代の高出力EV充電器の話であり、現行の充電器の上をいく規格となります。現在「GB/T」の最大出力は約240kWで、これを約900kWまで引き上げたいと考えていますが、それなりの技術力が必要となります。なぜ出力を上げたいかというと、現行の乗用車のみならず、バスやトラックといった大容量のバッテリーが必要な車にも適用していきたいからです。もともと日本からの技術提供を受けて開発した「GB/T」ですが、高出力化となると、簡単にはいかず、やはり技術力で上をいく日本の技術を得たいこともあって日中の規格統一となりました。

 

実は、「CHAdeMO」単独で高出力に対応させようとしていました。現状「CHAdeMO」の最大出力は約400kWでさらに出力を上げていく計画のところ、中国側から規格統一の提案があったそうです。

 

高出力のEV充電器を作りたいのと、既存のEV充電器も活用したいという2つを実現させることを考えた時、同じ通信方式で、かつ技術的に上をいき、品質でも安心な日本と組むのが最良と考えたようです。

 

中国は近年、経済発展に伴う大気汚染が重大な問題となっており、中国政府は様々な解決策を試みています。その中でも自動車の排気ガスの問題は解決しやすい(対策がわかりやすく、効果も出やすい)と考えており、2019年からEV車の生産を一定の割合で義務付けることが決定しています。この流れからも日本と組んでEV車を普及させたいのでしょう。

 

規格統一によるアドバンテージ

日中で規格統一することにより、日本の自動車メーカーが作ったEV車が中国でもそのまま充電可能となります。世界最大の市場である中国において中国向けにカスタマイズすることなく販売できるというのはコストから考えても大きなアドバンテージです。また、圧倒的なシェアを持つことにより、インドや、タイ、ベトナムといった東南アジアに対して積極的に日本のEV車及びEV充電器をアピールできることとなります。EV充電器は現状EV車の充電という側面が大きいですが、将来的には、バス、トラック、重機、船舶、飛行機といった現在の化石燃料で動かしているものに適用させることを考えています。そう考えると、この新規格の持つポテンシャルは非常に大きいです。

 

日中が規格統一することで欧米の「コンボ」は今後どのような動きとなるでしょうか?

チャデモ協議会の事務局長によると、欧米の「コンボ」とは互換性について議論している、とのことです。

お互いに排除するのではなく、連携を探っているようです。欧米勢としては欧米の市場があるとはいえ、中国市場を無視することは出来ません。何らかの形で日中の統一規格に関わってくると考えられます。テスラがやっているように、「コンボ」と日中の統一規格の両方に対応させるかもしれません。

 

また、今後自動車市場が大きくなりそうなインドでは、EV開発に力をいれていることもあり、「CHAdeMO」としては積極的に関与すべく、インドの国家規格制定に協力する予定があるとのことです。日本単独の規格だとシェア7%ということもあり、インドと中国、もしくはインドと欧米、の協調が進む可能性がありますが、日中の規格統一となると、高いシェア、高い技術、高い品質に期待し、積極的に日本と協調していくのではないでしょうか。

 

世界への影響

従来、国際標準というと日本はいつも負けているイメージがあります。技術力では勝っていても政治的に欧米が強いので結局欧米の規格が国際標準になるケースが多いと感じます。日本の技術は、どれだけ技術的に高くても国内市場にしか目がいかず、結果日本でしか通用しないガラパゴスだと揶揄されてきました。今回は中国市場という強さと圧倒的シェアを背景にアピール出来るので、勝てる公算が高い気がします。もし国際標準となれば日本のEV充電器メーカーの作った充電器を輸出しやすくなり、経済効果が見込めそうです。このまま欧米勢に得意の政治力を発揮させず、日中の規格が覇権を取れれば良いのですね。

欧米勢もこれまでコストをかけて開発してきているので、どのような手でくるかわかりません。大逆転劇など起こらないことを願います。ここ最近は、日本の自動車メーカーであり、チャデモ協議会の主要メンバーである日産とルノーの間でどのような決着がつくかわからない問題があったり、アメリカと中国との経済戦争があったりと、欧米VSアジアが目に付きますが、EVの未来には影響がでなければ良いですが、どうなることでしょうか。

 

最後に

2018年8月、EV充電器を日中で規格統一するというニュースが新聞やTVで駆け巡りました。EV車はまだまだ普及しているとは言えないので、他人事のように感じましたが、近い将来を見据えた取り組みなので、成功して欲しいと思います。EV充電器は2010年にチャデモ協議会が設立してから技術や品質を高め世界トップクラスのEV充電技術を持ちました。今回の規格統一により、日本メーカーは大きなチャンスを迎えています。この成果を確実に実にし、高い技術と高い品質で世界に良い影響を与え、また日本に経済の潤いをもたらしてほしいものです。

 

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