ドイツの自動車産業から見る“EV化・EV普及”についての取り組みは?

CO2(二酸化炭素)を排出しないEVは、環境対策のひとつとして世界各国で普及が推進されていますが、具体的にどのような取り組みがされているのでしょうか?

今回は、ドイツの自動車業界から見る、“EV化・EV普及”についての取り組みや課題をご紹介します。

ドイツ大手自動車メーカーのEV普及に向けた取り組み

まずはドイツの大手自動車メーカー3社の、EV普及に向けた取り組みをご紹介します。

フォルクスワーゲン

2017年9月、フランクフルト国際モーターショーで、フォルクスワーゲンはEV化のための新しい戦略「ロードマップE」を発表しました。

具体的な内容は、

・2025年までにEVを50車種、プラグインハイブリッド車(PHV)を30車種発売

・2025年までにEVバッテリー調達のために500億ユーロ(約6兆5,000億円)を投入

・2030年までにフォルクスワーゲングループの全300車種にEVタイプを導入

・2030年までに工場改築や従業員教育、技術開発研究、充電インフラの整備などに200億ユーロ(約2兆6,400億円)を投入

というものです。

2019年3月のジュネーブ国際モーターショーでは、ドクター・ヘルベルト・ディースCEOが、内燃機関車の需要はまだまだ多く、完全なEV化までには時間がかかるものの、順調にEV化が進んでいることをアピールしました。

ダイムラー

2017年のフランクフルト国際モーターショーで、

・2020年までに小型車ブランド「スマート」のすべての車種を電動化する

・2022年までに「メルセデス・ベンツ」のすべての車種にEVを導入する

と発表しました。

2018年9月には、EVの大型バス「eCitaro」を発表、2021年には大型トラック「eActros」、商用バン「eVito」「eSprinter」の量産が開始予定となっています。

また、2019年3月には、スマートと中国の自動車メーカー浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)が折半出資して、EVを共同で開発することを発表しました。

BMW

2017年フランクフルト国際モーターショーでは、最新ディーゼル車の話題が多かった2015年と大きく変わり、EVに関する発表が多くありました。

BMWもEV化に向けた戦略として、以下の2点を発表しました。

・2019年に小型車ブランド「MINI」のEVを発売

・2025年までにEVを12車種、PHVやハイブリッド車を13車種投入

 

2019年5月には、年内に発売予定のMINIのEVについて、「MINIクーパーSE」と車名を発表しました。9月のフランクフルトモーターショーで初公開、11月に生産開始、年末に発売予定となっています。

ドイツの行政のEV普及に向けた取り組み

ドイツの行政は、EV普及に向けてどのように取り組んでいるのでしょうか。

2030年までにエンジン車の販売を禁止に

2016年、ドイツ連邦議会は2030年までにエンジン車(ディーゼル車、ガソリン車)の販売を禁止する決議案を可決しました。さらに、ドイツ国内だけでなく、EU加盟国すべてで実現するように、欧州委員会に訴えています。

新車購入支援補助金の支給

2016年7月、ドイツ政府が自動車メーカーと費用を折半負担して、電気自動車の新車購入支援補助金制度をスタートしました。

2017年からEVとPHVの販売台数が急増しており、この補助金により普及は着実に進んでいます。

しかし、まだ十分ではないとして、2019年6月に終了する予定を2020年内まで延長しました。今後もさらにEVの普及を推し進める方針です。

フランスとともにEVバッテリー産業を助成

2019年5月2日、ドイツとフランスの両国は、EV用のバッテリー産業を助成するべく、50億~60億ユーロ(約7,500億円)を投資することを発表しました。

両国の政府などが約12億ユーロ(約1,500億円)、関連企業が約40億ユーロ(約5,000億円)を出資し、2023年までに両国に1か所ずつバッテリー生産工場を建設し、各工場で1,500人、合計3,000人の雇用創出を目標としています。

フォルクスワーゲン、BMW、オペル、電池メーカーのVartaなどが参加する予定です。

電動トラック専用高速道路「eハイウェイ」の試験走行開始

2019年5月7日、ドイツで「eハイウェイ」の試験走行がスタートしました。

eハイウェイは、高架線から給電して走行する電動トラック専用の高速道路です。

専用のトラックは「OHトラック」(オーバーヘッド・ライン・ハイブリッド・トラック)と呼ばれ、環境省が7,000万ユーロ(約86億円)以上を投資して開発しました。ハイブリッド車なので、一般道ではバッテリーが切れればディーゼルエンジンで走ることができます。

 

ScaniaのOHトラック

この試験は2022年末まで行われる予定となっており、CO2排出量を大きく削減できると期待されています。

複数の区域でディーゼル車乗り入れ禁止に

2018年5月31日、ハンブルク市の一部の区域で、ドイツで初めて古いディーゼル車の乗り入れが禁止されることになりました。2019年1月にはシュトゥットガルト市の市街地全域でも禁止に。さらに、アーヘン市やエッセン市、ゲルゼンキルヒェン市、ケルン市、ボン市などでも、旧ディーゼル車の走行を禁止とする裁判所の判決が出ています。

市民の生活や経済活動などに大きな影響が出ることから、反対意見も少なくないものの、将来的にはさらに規制が厳しくなることが予想されます。そのため、現在のところ規制の対象になっていない最新式も含め、ディーゼル車を手放しEVやPHVに買い替える動きが広まっています。

フォルクスワーゲンのディーゼル不正もEV化の加速の要因に

2015年9月、フォルクスワーゲンのディーゼル車の一部が排ガス規制検査を不正にすり抜け、基準を満たさない車を販売していたことがアメリカで発覚しました。発覚時には、すでに不正をすり抜けた多くの車が市場に出回っており、全世界で1,100万台にも上ることが判明したのです。さらに、不正の対象となった車種が世界各国で次々に発覚し、リコールや賠償金の支払いなどの対応に追われることとなり、収束までには約3年もの期間がかかりました。

環境問題への対応だけでなく、ディーゼル車への信頼が大きく損なわれたこの不正問題も、ドイツの自動車業界や行政がEV化を加速させる要因になったと言われています。

ドイツのEV普及に向けた課題は?

ドイツでのEV普及に向けたさまざまな取り組みをご紹介してきましたが、まだまだ課題もあります。

EVシフトにより多くの雇用が失われる

ドイツのフラウンホーファー産業工学研究所は、EVへのシフトにより、7万5,000人の雇用が失われる可能性があるという調査結果を発表しました。

なぜなら、EVの部品数は、ガソリン車やディーゼル車に比べて約2万点も少なく、組み立て作業に必要な人員も大幅に少なくなるからです。また、故障しにくく消耗品を交換することも少ないため、点検・整備・修理に必要な人員も激減すると言われています。

EVへのシフトによって、バッテリーの製造などで新たな雇用は創出されるものの、失われる雇用のほうがはるかに多いのです。

この問題に対し、新たな雇用対策が求められています。

EVはCO2排出量が多い?

「EVは最新のディーゼル車よりCO2の排出量が多い」という主張があり、論争を呼んでいます。

EVは走行時にはCO2を排出しません。しかし、ドイツでは石炭火力発電が多く、走行に必要な発電時や製造過程で多くのCO2を排出してしまうのです。そのため、最新式のディーゼル車よりトータルではCO2の排出量が多いという研究結果が出ていると専門家は言います。

本当に地球にやさしいエコな車としてEVを普及させるには、再生可能エネルギーなどによる発電を増やし、製造時や発電時のCO2排出量も削減する必要があるのです。

充電インフラの整備

充電インフラの整備も重要な課題です。

ドイツ自動車工業会は、2030年までに、誰でも使える公共の設備として、70万~100万か所の通常充電スタンド、7万~10万か所の急速充電スタンド、私有地に800万~1,100万か所の充電設備を設置する必要があるとしています。

現在ドイツの公共充電スタンドは1万7,400か所しかなく、まだまだ十分な数ではありません。

設置の促進のため、認可の手続きの簡素化、不動産の所有や賃貸に関する法律の改正などが必要だと指摘しています。

ドイツの自動車産業から見る“EV化・EV普及”についての取り組み まとめ

ドイツでは、行政と自動車業界が一体となって“EV化・EV普及”に向けて取り組んでいることが分かりました。

環境問題への対応という側面もありますが、フォルクスワーゲンのディーゼル不正の影響が大きく、ドイツの自動車業界はこぞってEV化を加速させました。

まだまだ課題はあるものの、着実にEV化は進んでいるようです。

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